私(博士課程後期2年 岩佐佳哉)の学術論文(査読付き)が2編掲載されました。2編の論文は、どちらも1945年9月の枕崎台風に関するもので、枕崎台風は広島に原爆が投下されてから約1ヶ月後に広島を襲った台風として知られています。原爆投下直後の混乱のため、明治以降に広島県で発生した自然災害の中で最多の死者数を出したにもかかわらず、詳細な情報が残されていません。枕崎台風の際に生じた斜面崩壊(土石流など)や死者の情報を詳細に明らかにすることで、今後の防災に活用できると考え、研究を進めてきました。
今回掲載された論文の1つは地理学評論95号2巻に掲載された「1945(昭和20)年枕崎台風と2018(平成30)年7月豪雨に伴う斜面崩壊の分布からみた斜面崩壊の免疫性」です。斜面崩壊の免疫性とは、斜面崩壊が一度発生した谷ではしばらくの間は崩壊が再発しないという考え方で、1955年に提唱されて以来その検証が行われてきました。本論文では、1945年枕崎台風の際に3,783箇所で斜面崩壊が発生したことを空中写真判読により明らかにしました。また、その分布を2018年西日本豪雨で発生した斜面崩壊の分布と詳細に比較することで、73年間では斜面崩壊の免疫性が保たれていることを明らかにしました。
もうひとつは、私と学部4年の杉山愛美さん、村上正龍さんとの共著で、広島大学総合博物館研究報告第13号(こちら)に掲載された「郷土資料に基づく1945年枕崎台風による死者の再検討とその特徴」です。広島県では枕崎台風の際に2,012人が亡くなったとされてきました。本論文では、市町村史などの記載をもとに死者数を再検討し、広島県で少なくとも2,169人の死者が生じていたことを明らかにしました。この中には、これまで死者がいないとされていた地域でも死者が生じていた事例が多くあります。また、死者が生じた地点を特定し、地形条件との比較を行うことで、土石流がつくる小さな扇状地(沖積錐)で最も多くの死者が生じていたことを明らかにしました。
これらの論文は、指導教員の熊原康博先生からの指導と、共著者の杉山さんや村上さんの協力により掲載に至ることができました。これらの論文が地理学の発展や広島県民の防災・減災にすこしでも役立つことができればと願っています。
(博士課程後期2年 岩佐佳哉)
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