現代倫理研究 (畠中和生 教授) 2013年現在

畠中先生が担当されている教育学部の授業のなかで一押しのものはなんですか?

学部での一押しは「現代倫理研究」です。これは選択必修科目なので、全員が受講する必要はないのですが、私が受け持っている中でも、学生が最初に受講することのできる授業です。社会系コースの学生さんは毎年結構たくさん参加してくれていますね。

具体的には、どのような内容を取り扱うのですか?

内容は一言で言うと「生命倫理学」です。脳死とか臓器移植、生殖医療、終末医療などの、みんながよく知っているテーマを取り扱います。「倫理」というと「思想」を思い浮かべるかもしれませんが、生命倫理学は、「応用倫理学」という倫理学の一分野に属する学問です。応用倫理学は、倫理学の中でも現代的なテーマを取り扱う学問で、生命倫理の他にも、環境倫理、情報倫理、企業倫理などの領域を取り扱います。中でも生命倫理は、1980年代以降、日本では脳死と臓器移植の問題がきっかけとなり、学問的のみならず社会的にも注目されるようになってきました。

「応用倫理学」を社会系コースの授業で学ぶ意義は、どのようなところですか?

倫理学の基本は、人の立場に立って考えてみよう、ということです。立場を変えてみるとどういうことが見えるかということを考える。これは、社会科の教員として物事をとらえたり、子どもに教えたりするときにも重要な視点となってくるでしょう。

 応用倫理学の難しいところは、「解決が難しい」という点です。ここでいう解決とは、希望している人が、希望しているものをちゃんと手に入れられるということです。医療で言えば、最終的な目標は当人が望む医療が実現可能になる、というのが終着点なのですが、必ずしもそうはいかない。臓器などの人の「命」に関するものを取り扱うわけですから、ただの「もの」として簡単に扱うわけにはいきません。そういう解決の難しいテーマを取り上げて学ぶことで、社会を見る目を持ってもらうのが、私の役目ですね。

受講している学生の反応はどうですか?

多くの学生は熱心に授業を受けてくれていると思います。後期には「倫理学概説」という授業があって、これは倫理学の思想家たちの歴史(思想史)などを学ぶオーソドックスな講義なんですが、そっちのほうが学生は眠そうだね(笑)。きっと内容が抽象的になってしまいがちだからでしょう。それに比べて、この授業は生命倫理などの現代に起こっている社会的な論争をテーマとして取り扱うわけですから、具体的な内容があるので、学生は興味を持ってよく聞いてくれますね。

授業をする中で、特に意識されたり工夫されたりしている点はありますか?

私はもともと専門がカントやシェーラーなどのドイツ哲学で、学部に赴任してきた際に応用倫理学を本格的に研究テーマとして取り扱うようになってきたので、私自身も初学者のような気持ちで教材の研究や授業の準備をしています。

特に生命倫理は、テレビや新聞などでよく取り上げられますから、常に身近な問題から授業に入っていこうと心がけています。私はドキュメンタリーとかニュースが好きで毎日見ているのですが、その中にも生命倫理関係のテーマがよく取り扱われています。ですから、そういったものを片っ端からチェックして、保管しておく。そして、タイムリーな話題を授業の中で見せる。新聞も同じように全国紙と地方紙を読み込んで、スクラップしてよく使いますね。

また、応用倫理の世界は、技術的な進歩に応じて、モラルや倫理もどんどん変わって来ます。私が社会系コースに赴任した頃は、まだ「インターネットを悪用した犯罪」がセンセーショナルな話題で、取り扱うだけで学生も物珍しそうに聞き入ってくれたけど、今はそういう問題がなくなるどころか日常化してしまって、何を今更という感じですからね。ですから、話題を取り扱うときは、常に最新の情報を仕入れるようにしています。

高校生に向けてメッセージをお願いします。

本をよく読んでほしいですね。それも、自分の好きな分野だけでなく、いろんな分野のものを読んでほしい。私は大きな本屋に行ったら、必ず全部のジャンルのコーナーをぐるっと回るんです。そうすると、文系の私でも興味を持てるような面白い本が意外と理系の棚にあることに気づいたりするんですよ。だから食わず嫌いせずに、いろんな分野の本をよく読んで勉強してほしいですね。