卒業生の活躍 平野香さん ((株)帝国書院) 2013年現在

社会系コースを卒業後、どのようなお仕事をされてきましたか?

私が働いている帝国書院は、教科書や地図帳を作っている会社です。会社に入ってすぐは、営業部に配属されて、毎日のように高校に行って、先生方にうちの会社の教科書を使ってもらうようにお願いしに行きました。とにかく忙しくて、最初の2ヶ月はホテルに泊まりきりでしたね。

その後、人事異動で編集部に配属になり、中学校公民の教科書と資料集、問題集などの教材の編集を担当しました。なかなかうまくできなくて、先輩方にも迷惑をかけてしまい、全然成果があげられませんでした。でも、先輩方が熱心に指導してくださって、どんどん教育してくれたのがとてもいい経験になっています。

編集の仕事が一段落して、去年からはまた中学校の教科書の営業になりました。今は群馬県を担当しています。ただ営業に回るだけではなくて、営業の社員が使うタブレット型のパソコンを管理・運用したり、これから主流になるであろう「デジタル教科書」などもとり入れて、うまく営業に活かす方法を考えたり。自分も営業活動をしつつ、よりよい営業方法を考えたりするような仕事をしています。

仕事のやりがいはどのようなところに感じますか?

教科書会社に入って一番良かったことは、教員として働いている大学時代の友人達を、教材づくりの視点からサポートしてあげられるところです。「いい授業がしたいけど、部活やクラス運営などの仕事が忙しくて授業づくりをする余裕がない…」という彼らの苦しみを、少しでも楽にしてあげたい。会社には、地理学や歴史学を専攻してきた文学部などの出身の人が多くて、私みたいに教育学部の出身者は少ないのですね。でも、私は教育学部出身であることを活かして、先生の立場に立てる編集者や営業マンになりたいと思っています。

仕事をしていて一番嬉しい瞬間は、資料を送った中学や高校の先生が「おかげで授業がうまくいったよ、ありがとう」と報告してくれた時ですね。営業にいっても、現場の先生と「ここの教材はこういう風に使ったほうがいいのじゃないか」といった話をしたり、教材の引き立て方についての話題で盛り上がったりすると、とても嬉しい。自分たちが苦労して作った教科書や地図帳が、授業で実際に使われていて、先生方と、先生方を通してその向こうにいる生徒たちにまで届いているのだなと思える瞬間に、やりがいを感じます。

帝国書院に入って仕事をしたいと思ったきっかけは何ですか?

大学に入る前は、教科書会社に入る道は全然考えていませんでした。では先生になりたかったかというと、そういうわけでもなく、ただ、社会科が好きだった。また、平和教育などにも興味がありました。このあたりがそもそも社会系コースを選んだ理由なんです。

帝国書院を目指すことになった直接のきっかけは、大学で教材や教科書を分析する授業を受けて、教科書に興味を持ったこと。大学院に進んで研究者になる道も考えたのですが、就活で先に帝国書院に採用が決まったのでそちらに進みました。

帝国書院で働いて感じたのが、自分は「先生」という人たちがすごく好きだということです。自分自身が先生になって働くということは全然考えられなかったのですが、先生の話をきくということ自体が好きなのだなあと感じます。こういうことは、働いてから気づきましたね。帝国書院に就職して本当に良かったです。

教科書会社で働くことの良さは何ですか?

社会に出ても社会科について考え続けられることですね。それができるのは、普通は中学・高校の社会科の先生や大学の研究者くらいでしょうけど、教科書会社だと彼らとは別の形で社会科に携わることができます。とくに帝国書院は、社会科の教材しか作っていない会社なので。

どのような大学生活を過ごされていましたか?

「社会系コース漬け」の生活でしたね。サークルもやっていませんでしたし、バイトなどもしていましたが、それを差し置いてでも、ソフトボール大会や旅行などのコースの行事には欠かさず参加していました(笑)。特に同級生の女の子たちがすごく仲が良くて、しょっちゅうみんなで集まって、ごはんを作ったり、ドラマを観たり…。今でもよく集まって遊びます。みんなで旅行に行くにしても、社会系コースの学生は趣味が合うので、すごくディープな旅ができる。この前も、女の子だけで長崎県に行き、軍艦島の上陸ツアーや島原城に行って、楽しみつつ教材を探していました。大学の時も今も、そうやって集まっては旅行に出かけています。かけがえのない友人たちですね。

また、両親に「大学は勉強するところだから、勉強はがんばりなさい」と言われていたので、その通りだと思って、授業もまじめに受けました。とくに社会系コースの専門科目の授業はすごく楽しかったですね。広大の図書館にはたくさんの本があるし、個人利用できるブースもあるので、時間さえあれば図書館に居座っていました。あまり活動的ではなかったけど、充実していて楽しい学生生活でしたよ。

そうやって学生時代に勉強したことは、お仕事でも活かされていると感じますか?

最初働きだしてから苦しかった時は、勉強していたことが全然役に立っていないと思ってしまうこともありました。でも、仕事に慣れて、だんだん自分の頭で考えられるようになった最近では、大学時代に学んだことを色々と引き出せるようになってきたかなと感じます。

逆に、大学時代にはもっといろんなことを経験しておけばよかったと、ちょっと後悔しています。お金はあるけど時間はないのが社会人なので、借金してでももっと旅行に行って、視野を広げたかったですね。ですから、いま社会系コースに在学中のみなさんは、どんどん旅に出て、学生のうちに世界を観ておくことを強くおすすめします!

社会系コースに入って得た一番のものは何ですか?

一番…と言いながら2つあって、一つは「社会科漬け」の生活を送れたことです。小学校からずっと社会科が好きで、それがきっかけで社会系コースに入ったし、これからも一生好きだと思います。そんな私の人生の中でも、一番「社会科漬け」の生活を送ることができたのが大学時代で、「社会科が好きだ!」というこの気持ちを確固たるものにしてくれました。

もう一つは、大学時代に得たコースでの友人関係です。仕事がうまくいかず苦しくて、辞めたいと思う時も正直ありましたが、彼ら彼女らがいることが、「やっぱり先生として学校で頑張っている友達を支えたい」という気持ちにつながりました。ずっと一緒にいなくても、支えになってくれる。そういう家族みたいな濃い関係が作れるのが、社会系コースならではの友人関係ですね。

最後に、高校生に向けたメッセージをお願いします。

社会の先生になるんだ、という強い気持ちを持っている人はもちろんですが、ただ漠然と「社会科が好き」「学校が好き」と考えている人にも、自信を持っておすすめできるコースです。私のように、はっきりと先生になりたい、という理由がなくても、社会系コースにはその受け皿があります。

そして、社会系コースの専門授業は、「なぜこの内容をこうやって教えなきゃいけないの?」という、「教える意味」を考えていくことになります。地理や歴史、公民について「なぜ?」「どうして?」と感じたことをもっともっと深く考えてみたい、社会科という教科について掘り下げたいという人にとっては、きっとすごく楽しい学生生活が送れるコースだと思いますよ。