私は社会系コースを卒業後、もっと専門的に社会科教育について学びたいと考え、そのまま大学院に進学しました。大学院では棚橋健治先生のご指導のもと、「社会科における指導と評価の一体化」(社会科の指導のあり方と、指導の結果によって獲得された学びの評価を、どのように効果的に関連づけられるか)というテーマを設定し、研究を進めました。この研究テーマを選んだのは、私はもともと大学院修了後は教員になろうと決めていて、そのための研究をしようと考えたからです。
修了後は長崎県の中学校教員採用試験に合格し、長崎市内の中学校で6年間働きました。そして3年間持ち上がった生徒の卒業を機に、昨年広島県の採用試験を受け直し、この4月から採用されました。本校は、大学時代の恩師の一人である池野範男先生が授業改善などのご指導に来られていて、いつもとてもためになるお話やアドバイスをしてくださいます。今でも大学時代のコースや先生方とのつながりがあるのが、すごく心強いですね。
社会科教員として社会科授業を担当するとともに、生徒指導や保護者対応を含めた学級担任としての仕事、さらに部活動や行事の運営など、仕事は多岐に渡ります。
社会科の授業は、1年生の3クラスと3年生の2クラスを担当しています。社会科の授業が週17時間あることになります。それ以外には、担任しているクラスの道徳や学活、所属している学年の総合的な学習の時間を受け持っています。また、女子バスケットボール部の顧問をしています。
私は学生時代“社会科の先生”になりたいと考えていましたが、実際に教員になってみると、予想以上に教科指導以外の仕事の比重が高いと感じます。とくに大学院時代は、社会科教育について突きつめて考えていきましたが、実際に教職に就いてからはむしろ、生徒指導や学級経営に心を砕くことが多いです。
自分の人間としての未熟さや引き出しの少なさ、認識不足を感じさせられることもたくさんあります・・・学生時代に遊びも含めて様々な経験をしたり、自分と向き合って考えるくせをつけたりしておくことが大切だと思います。また、中学校の教員は部活動の顧問を持つことが多いので、何か自分が専門的に指導できるものがあると強みになると思います。
生徒の成長を実感したときです。とくに担任している生徒やクラスの成長を感じた時ですね。私は本校に赴任する前、校長先生から来年度の仕事内容についての希望を聞かれた際に、「絶対に学級担任を持ちたいです!」とお願いしました。やっぱり「わがクラス」がないと面白くないんですよね。生徒は日々、良くも悪くも変わっていきます。学級担任として、毎日のHRやお弁当、掃除などの時間、あるいは行事や様々な活動の場面で、生徒たちと時間を共有し、働きかけることで生徒が良い方に動いたり、自分たちで何かをやり遂げたりしている姿を目にしたとき、本当に大きな喜びとやりがいを感じます。学級担任の仕事は大変なことも多いですが、大変さ以上に得るものは大きいと感じます。
もちろん社会科の授業で、生徒が「わかった!」「おもしろい!」と反応してくれることもうれしいことです。理解に時間がかかりそうな学習内容を、いかにおもしろく、わかりやすく授業しようか・・・と頭を悩ませているときにも、やりがいを感じますね。
まず、社会科の授業づくりについて学べたことです。大学や大学院の授業を受ける中で、社会科授業について考える「ベース」を作ってもらえたので、それが今でもすごく役に立っています。授業では必ずその時間の目標を生徒にもわかるように示します。目標は多くの場合「問い」の形(「なぜ◯◯は☓☓なんだろう?」といった形式)で設定し、黒板に書き、授業プリントにも載せます。そして授業は、その問いを追求し、考えさせる内容になるよう工夫しています。大学時代に学んだことが、間違いなく今の私の授業スタイルの土台になっていますね。
もちろん、大学で学んだことをそのまま型通り毎日の授業で実践できるわけではなく、その学校やその地域、その時目の前にいる生徒に求められるものに合わせて、柔軟に対応する工夫が大切です。常に自分の授業を批判的に(クリティカルに)みて、その時に考えられるベストの授業を実践していきたいと思っています。
大学時代、授業が理解できないこともたくさんありました。でも、あきらめずに考え続けることで、「なるほど!」「ああそういうことか!」と先が開ける瞬間がありました。考え続けることの大切さや、そもそもの“考え方”について学べたことは、大きかったです。
基本的には授業をまじめに受けていたと思います。社会系コースで受ける授業だけでなく、総合科学部や文学部で受講する授業も、興味深かったですね。でも学部1・2年生の頃は、一般的な大学生の例にもれず、まだまだ本気で勉強できていなかったと思います。歴史や地理、公民的な内容の授業は、高校までよりも詳しく学べることが面白く、授業が楽しみでした。でも、社会科教育に関する授業については、初めて考えることが多くて、最初はいまいちピンとこないこともありました。一人暮らしで時間が自由に使えることもあり、新入生向けのオリエンテーション行事の運営スタッフをしたり、社会系コースの行事や学部祭の準備をしたりするなど、学生時代の前半は、とにかく友人と楽しく過ごしたという印象が強いです。
転機は、学部の2年生後期の授業でした。ある先生の授業がきっかけで、「社会科って何だろう?」と真剣に考え始めました。学年が上がるにつれて社会系コースでの専門の授業も増え、実際に授業をつくったり、模擬授業やレジュメを作って発表したりする演習形式の授業も増えます。真剣に考えると、講義の内容もわかり、自分で考えることに面白さを感じるようになりました。
私の学年は同級生みんな仲が良くて(今でも年に1・2回同窓会をしています)、当時からしょっちゅう集まって遊んだり勉強したりしていました。3年生ぐらいからは、有志で勉強会や読書会(特定の本をみんなで少しずつ読んで、議論する勉強会)もするようになりました。読書会ではジョン・デューイ(日本の社会科に大きな影響を与えたと言われている米国の教育学者)の著作をみんなで読破しましたね。教員採用試験対策も兼ねて、地理や日本史・世界史など自分の得意分野について、範囲と担当を決めてお互いに資料を準備して授業をし合う、などしていました。また、同級生に川口広美さん(現滋賀大学講師)がいたことも大きいですね。彼女とはプライベートでもすごく仲がいい友人ですが、当時からとても勉強熱心で、彼女と一緒に勉強会なんかも企画して、それにみんなが乗ってきてくれて・・・という感じでしたね。本当に友人関係に恵まれた大学生活でした。
おそらく、社会系コースを選ぼうとする人は、多かれ少なかれ「オタク」な人だと思うんですよね(笑)。「自分が、地理が/歴史が/公民が好きだから」という理由でコースを選んだり、教員になろうとしたりしている人が多いのではないでしょうか。
でも、世の中はそうではない人が大多数で、生徒たちにも社会科が嫌いな子がいっぱいいます。そういった、社会科に対する他者と自分とのギャップをまず知ってほしい。そしてそこから考えてほしい。例えば「じゃあ、目の前の社会科が嫌いな子どもたちに、わたしが大好きな社会科の面白さを伝えるにはどうしたらいいのか?どんな工夫ができるのか?」「わたしがずっと面白いと思っていた社会科の授業は、どうして面白かったのか?」「そもそもなぜ社会科を学ばなければならないのか」など。社会科について突きつめて考えることができるのが、このコースで学ぶ醍醐味だと思います。
また、私が社会系コースで学んで得た一番の財産は、ともに学んだ仲間と、熱心にご指導くださった先生方との出会いだと思っています。社会科について一生懸命学びたい人は来て損はないし、それをサポートしてくれる環境がここにはあると思います。