卒業後、教員採用試験に合格したのですが、出向という形で、広島県の埋蔵文化財調査センターへ派遣されました。これは教師になろうと思っていた私にとってかなりショックな出来事でした。本センターでは、調査研究員として広島県内各地の遺跡の発掘・測量調査を3年間行いました。その後、県内の公立高校に赴任し、初めて教師として教壇に立つことができました。しかし、3年後には、広島県立美術館に派遣されることになりました。そこでは学芸員として常設展の展示や企画展の立案などに2年間携わり、その後、再び県内の公立高校に赴任し、教職に就きました。
それから、教員としての資質や能力を向上したいと考え、休職して大学で研修を行うことができるという制度を活用して、2年間、兵庫教育大学大学院の修士課程において、日本史の授業を開発するという研究をしました。修士号をとった後、元の公立高校に復帰しました。
復帰後も研究、特に授業開発の際に参考にしたドイツの歴史教育に関する研究を継続したいと考え、「ドイツの歴史教育」に詳しい広島大学の池野範男教授に相談していく中で、研究への思いは強くなりました。そこで、勤務していた公立高校を辞め、広島大学大学院の博士課程に入り、3年間の研究を経て、博士号を取得しました。そして現在、佐賀大学で大学教員(准教授)として働いています。
現在は、佐賀大学の大学教員として、主に「研究」と「学生指導」を行っています。「研究」としては、ドイツの歴史教育について、様々な文献や実際のドイツの学校現場の分析を通して、「ドイツで行われている歴史教育は何を目的としているのか」といった歴史教育論を考察しています。
「学生指導」としては自分が担当している「初等社会科教育法」「中等社会科教育法」などの講義を通して、よりよい社会科教育とは何かということを、文献を読んだり、授業の指導案を作成する中で考えさせています。また、「研究」を活かし、ドイツと日本の歴史教育を比較することで、学生たちが当たり前に思っている日本の歴史教育を疑問視するような内容も講義に取り入れています。他にも「地域貢献」として、大学近隣の小中学校で行われる研究授業や県内の小・中学校教員の研究会において指導・助言などを行っています。
研究は「終わりがないこと」がとても面白いと思っています。常に疑問がでてきて、その疑問を解決するために仮説をたて、実証し続けていくことが、研究のやりがいだと感じていますので、疑問が生まれ続ける限り、研究していきたいと思っています。
また、高校の教員であった時には自分がどのように教えるのかだけを考えていましたが、そうした自分なりの考えを持って教えることのできる教員を養成できることが大学教員の魅力だと思います。
高校生のころから歴史に大変興味を持っていて、歴史を詳しく知りたいと思い、文学部に行こうとはじめは思っていました。しかし、私が受験する年から文学部の試験に苦手な数学が課されることになったために、教育学部社会系コースに方向転換しました。このことが、結果として、私にとって幸運であったと思っています。
社会系コースの約25人の学生の中で女子が5人しかいませんでしたが、その分、四六時中いっしょでとても仲が良くなりました。みんな社会や歴史に興味を持っていましたので、博物館や歴史民俗資料館をめぐる旅行に行ったりして、友達関係がとても楽しかったです。
大学で講義を受けながら、塾講師や家庭教師などのアルバイトもしていました。この経験は、「教える」ということについて深く考えるきっかけにもなりました。この時は、いかにわかりやすく教えるかということを考えていましたが、教師の側が百の知識を持っていたとしても、生徒・子どもに十しか教えられないことに気づき、教えることの難しさを実感しました。
歴史について詳しく知りたいと思って入りましたが、「歴史が好き」、「歴史を詳しく知っている」だけではよい社会科教師になれないのであり、教育・授業を行うには、どのような課題を設定し、それに向けてどのような内容・方法をとるかといった「授業理論」を理解し、それにもとづいて授業をつくり、実践することが大切であるということを大学の講義である「社会科教育論」で知ったことが強く感銘を受けたことであり、今の自分(の研究活動)の原点だと思っています。
実際の現場で授業理論を実践しようとしても、思うようにいかない難しさに直面し、自分の力不足を痛感しました。この経験が、広島県高等学校の社会科の研究会への参加、兵庫教育大学大学院での研究につながっています。このように、教社で得た原点をもとに、教社やその時々で得た人間関係の相互作用によって、これまでの(教師から研究職へ変化してきた)キャリア・進路があると思っています。教社に入った、また卒業した段階では大学の教員・研究職になるとはまったく思っていなかったため、今でも自分の進路をふりかえってみると、本当に色んなことがあったと実感します。
高校教師を経て研究職に就いた私のように、社会系コースは、(教師だけでなく)様々な可能性を開くことのできるコースだと思っています。
特に社会科の教員としてスペシャリストになりたいと思っている人には理想的な環境・コースだと思います。高校生の頃は「地理・歴史が好きだから」ということが社会科教師になりたいという希望に直結していると思いますが、そういった考え・概念を変えてくれ、優れた(社会科)教師になるにはどうすればよいのか考えさせてくれるのがこのコースだと思います。
約25人という少人数であるため、密な人間関係(友人・教授)をつくることもでき、これは今の人間関係の基盤となっています。こうした人間関係は将来にもつながるものであり、卒業後の人間関係形成にもとても役立ったと思います。
自分の可能性は、自分自身で切り開いていかないといけませんが、社会系コースはその方向づけにいろいろな示唆を与えてくれると思います。自分も社会系コースに行って、本当によかったと思っています。
そして、最高の環境を与えてくれる社会系コースに入学した後は、その環境をどのように活かすかが重要になるので、常に目標意識を持ち、それに向けて努力する姿勢が大切だと思います。