学部1年生が日本全国の原爆慰霊碑の分布や属性を調べました。

1年生必修授業「教養ゼミ」では,日本全国の原爆慰霊碑の分布や属性を調べる研究を行いました。調査を進めるにあたり,誰が何をどのように調べるのかについて学生自身が決めて,研究を進めました。中間発表では,インターネット上の報告書や記録などに基づいて,各地域で慰霊碑がどこにあり,どのような特徴があるのかをそれぞれ報告し,さらに,今後調査を進める際に注意する点を議論していきました。

5月19日に約1ヶ月間にわたる研究成果を発表しました。現在,広島県は非常事態宣言が発令中のためオンラインでの実施となりました。明らかになった主な点を以下に示します。

-日本全国には原爆慰霊碑は少なくとも356箇所あること,その分布には地域差が大きく被爆地に近いところで多いこと。一方で遠く北海道にも原爆慰霊碑があること。

-県ごとの碑の分布数と被爆手帳保有者数をみると,概ね相関が見られること。

-石碑の建立年を整理すると,広島市は1960年代に多いのに対して,長崎市は1970年代にピークがあり,時代差がある。広島市の場合,1960年代からはじまる原爆ドーム保存運動と関連がある可能性を指摘できる。

-広島市と長崎市の原爆慰霊碑の分布を比較すると,広島市が全方位に分布するのに対して,長崎市では南北に長い分布を示す。これは長崎市の全壊範囲が地形に影響をうけて南北に長いことに影響する。

-長崎市には,慰霊碑ではなく祈念碑と呼ばれる原爆関連碑もあること,また外国からの寄贈された碑も多く,広島市とは異なる建立の背景が推定される。

他にも数多くの発見があり,チューター(担任)である私(熊原)としては,授業だけ終わるのはもったいないデータだと考えています。折角集めたデータですので,もう一度整理して,学会発表や論文執筆までつなげてもらいたいと思っています。以下は発表を終えての感想の一部です。

○Aさんの感想

高校時代も“探求”という授業で研究みたいなものをしたことはあったのですが,実地調査などはできなかったものの,きちんと定義などを決めて研究を行い,最後にはスライドで発表するのは初めてで,よい経験になりました。私は現時点で何を研究したいのかは見定まっていません。日本史に興味があるので,その出来事の一つを切り取って世界史や地理とも絡めながら研究できればいいな,と思ってはいますが,大学生活を送る中で新たに研究対象としたいことが変わるかもしれません。それは,これからの生活で見つけたいと思います。しかし,研究の進め方の1つとして今回の研究は非常に有意義なものになりました。様々な事柄を集めて,吟味し,それらの全体を俯瞰してみることが研究には大切だと思いました。今回の経験を糧にして,これからの研究に取り組んでいきたいと思います。

○Bさんの感想

今回,長崎班の一員として研究に携わりました。平和都市だけあって慰霊碑・平和祈念碑の類がたくさんあって大変でしたが,事前に条件が鮮明化されていて助かりました。研究をするうえで具体的な条件などをしっかり定めることの重要性を再確認しました。そして,グループで研究を進めることも楽しかったです。しっかりと議論を重ねることで,考察に深みが出ていくのを肌に感じました。卒業論文を書く際にも役に立つ経験ができたと思います。

○Cさんの感想

僕は今回,教養ゼミで関東の原爆慰霊碑を調査しました。広島や長崎に比べるとどうしても情報量が少ないため,苦労しました。全体的な内容としては,それぞれの地方がそれぞれの観点で考察ができていて,とても充実していたと思います。個人的に今まで平和学習を小中高でしてきましたが,原爆慰霊碑の全国的な分布の調査という詳しい研究はしたことがなかったので,とても興味深かったですし,大学生らしい主体的な学習ができてとても良かったです。

○Dさんの感想

私は兵庫県出身です。だからか今まで原爆の慰霊碑とかについて考えたことなどそんなになくて,正直,最初はどんな感じになるのかとかあまり想像できませんでした。私は原爆についてそれほど詳しいわけではなかったので,これは私にとって良かったことの一つだと思います。これから平和について考える機会も多いと思うので,その時に役立てばいいなと思います。

 私は20人くらいで1つの研究を行う経験は初めてでした。中心になって動いてくれた人たちに比べたら私はそんなに力にはなれなかったと思いますが,全員で一つの研究をするって面白いなと思いました。全国の地方ごとの考察も聞いていて,その地方だからこそ気が付けたことや特色が出ていたり,私では思いつかないような着眼点から考えていたりして面白いなと感じました。論文とかにするには確かにばらばらだったかもしれないけど,私は,あれはあれで興味深かったというか,いいのではないかなと思ったりもしました。

 私がこの研究を通じて今後何かできないかなと考えたときに,私自身がそうであったように,地図を作りながら歴史について触れることができるというのは大きいのかなと思いました。地域の戦争の慰霊碑など身近なところからから平和について考えていく,そのような活動や授業が将来できたら面白いと思いました。

熊原康博(准教授,1年チューター)