高等学校における大学院生の授業改善プロジェクトを紹介します

本コース大学院博士課程後期大学院生の小野創太さんは本年度から、広島大学附属高等学校で公民科「倫理」の授業を担当しています。小野さんは「少しでもいい授業をしよう」という想いから、日々の授業を振り返り、改善を重ねていますが、発問や教材などの振り返りを充実させるために、第三者の視点が欲しいと感じていました。

そこで、私(奥村)が小野さんの授業を観察・記録し、授業後に検討会を行うことで、授業の振り返りと次回に向けた改善案を検討することにしました。小野さんが、公民の授業で何を達成したいのか、どのような目標を、なぜ持っているのかを客観視できるよう支援しています。以下が2人で行った振り返りの資料です。

・授業を開発・実践・改善していくことと、哲学や倫理学の知見を学ぶこととは同時に進めていく必要がある。学ぶことで自分の授業を改善する視点が得られ、授業を実践することで何を学ぶべきかが明確になる
・思想を理解するために、当時の時代背景を知る必要があるが、それだけでは「倫理」として生徒が自分で考えるという活動が手薄になるので、両立するような授業を構成したい
・振り返りのディスカッションを通じて、「難しい思想でも自分で考えてみることで、自分なりの理解が出来上がるので、それを批判することを通じて、思想が理解できるようになっていく」という自分の教育観が分かってきた
検討会での語り(一部)

また、小野さんが「倫理」の授業をどのように開発・実践・改善しているのかをデータとして蓄積することで、「社会科教師は授業を、どのように開発・実践・改善していくのか」という教師教育研究へ示唆を得られると考えています。

検討会の様子

以下、小野さんと指導教員の川口広美准教授の感想です。

私は、高等学校で授業ができるメリットを十分に活かし、自らの実践を社会科教育学研究の俎上に載せたいとの思いがありました。しかし、「子どもたちの市民性育成のために、どのような倫理カリキュラムを設計していくか」という問いを一人で考え続けることは、なかなか困難なものでした。

観察者である奥村さんは、私が授業の意図や授業を行う上での難しさを話しやすい雰囲気づくりに努めてくれており、批判的同僚として対等な立場で授業実践を検討し合うことができていると感じています。また、事前に授業研究の目的を十分に共有したことで、よりよいカリキュラム作りの見通しを立てることができるなど、授業者にとって必要な支援が的確になされていると思います。(小野創太)

このプロジェクトの良さは2点指摘できると思います。第1は、良い授業改善を行うための充実した批判的省察です。より良い授業づくりを行っていくうえでは、日々の振り返りは重要です。日々の振り返りを丁寧に行うことが、より良い授業に繋がっていきます。第三者としての奥村さんが入ることで、より多様な視点から見ることが可能になります。指導者としてではなく、同僚として授業を常に見学し、振り返りをしながら見ていくことで、授業者の小野さんの力にもなっているのではないでしょうか。第2は、「市民性育成のための倫理」というカリキュラムの充実です。「倫理」は「人間の在り方・生き方」を考える教科である一方で、思想や哲学を伝達するという役割だけがクローズアップされ、授業の中で自己の在り方や生き方を振り返るという機会が提供されにくい状況にありました。両者は熱心に教材研究に取り組み、科目の目的を達成するような実践となるよう心がけています。来年度より、新たに「公共」も導入され、公民科の在り方も変わっていきますが、よいモデルとなる実践を提案できることを願っています。(川口広美)

文責 : 奥村 尚(研究生)  小野 創太(博士課程後期)