『社会科における多文化教育』の読書会を開催しました

 2019年9月4日(水)に川口広美准教授と大学院生で読書会を開催しました。対象文献は、森茂岳雄・川﨑誠司・桐谷正信・青木香代子編著(2019):『社会科における多文化教育』(明石書店)です。今回の読書会で意識したのは、日常言語での議論です。多様性、社会正義、公正という言葉を使わずに多文化教育について語ることを意識し、自分たちの使用言語の中にフレームワークを手に入れることを目的としました。
 参加者5名で第1章・第2章・第3章・第4章・第17章を分担して読み、担当章を簡潔に説明し合い、質疑応答をしました。各人の問題関心や研究フィールドに即して考察しながら、多文化教育の理念や価値を語り合いました。予定時間を2時間延長しましたが、頭をフル回転したいい感じの疲れが快感でした。

以下、参加した大学院生の感想です。
「担当した17章でカナダの多様性の教育的方向性やその基盤、目標などを知れたので、今日の機会を個人の研究に生かし、評価の文脈を調べたいです。また、多様性・社会正義・公正の言葉の中にも様々あるから、一括りで語ることは難しく、それぞれの国で語ることの大切さに気づきました。この本は社会科教育学に貢献できる!と、この読書会を通して強く感じました。」(当時M1・玉井)

「多文化教育に対する“感覚”が変わりました。異文化大切にしよう、みたいなもので捉えていたけれど、イデオロギーを伴った運動や社会変革のスタンスなどを身にしみて感じることができました。」(当時M1・高松)

「なぜ多文化教育って実現できないんだろう?今回の読書会を通して、社会科教育の本質をとらえ直さないと実現できない教育だと感じました。多文化教育を社会科教育として考えるためには、学界のマジョリティと前提が異なる人がいてもいいし、それが重要なんだと思います。具体的な授業実践としてこんなふうにできるよ、ではなくて、教科の思想・本質・基盤を問い直すきっかけをくれた本、そして会合でした。」(当時D1・両角)

「なぜ多文化という名前にしたのだろう?「多文化」というワードを使うことで、読者へもったいない誤解を与えてしまっているように感じました。私は3章を担当し、「気づく」という日常言語を使って説明しました。社会正義に向けて「誰が気づく?何に気づく?」は様々で、気づく順序で効果性も変わるでしょう。もし次の読書会があるなら、日本の中の多文化状態を列挙してみたいです。不平等構造に存在する「日本人性」のような概念は他に何がありうるのだろうか。また、今の日本で教育を受ける子ども・指導する教師は、どんな概念であれば教育で取り上げたいと思うのだろうか。引き続き、考えていきたいです。」(当時D2・守谷)

とても気軽な会ですので、興味がある学部生や大学院生はお気軽にお声がけください。
【文責:守谷富士彦(博士課程後期3年)】