本講座では,学生主体での勉強会・読書会が複数行われています。その1つが「自己調整学習勉強会」です。この勉強会は,本講座の学部4年生・野瀬輝さんと博士課程前期2年・玉井慎也さんが中心となって企画・運営し,川口広美准教授がオンライン環境整備や助言をしています。4月以降はZoom等のオンライン媒体を活用し,毎週定期的に開催し10名前後が参加しています。これまでの勉強会では,自己調整学習の前提として,「足場がけ」「認知的徒弟制」といった学習科学に関する基礎用語について検討してきました。その中でしばしば議論されたトピックとして「いかに熟達者へとコーチングするか?」というものがありました。
そこで4月30日に行われた勉強会では,初めて学外のゲストをお招きしました。ゲストとは,スピードスケートのアシスタントコーチを務めている松浦孝則さんです。松浦さんからは,「スポーツ領域における自己調整学習—自分よりも優れた選手とどう関わっているか—」と題したプレゼンテーションがありました。このように,実際に競技スポーツの世界で「コーチ」を務めている人の視点から,「社会認識教育」における自己調整学習のあり方,そしてそのコーチングの可能性と課題を捉えることができました。1時間半に及ぶセミナーは質疑も活発に繰り広げられ,充実したものとなりました。以下は,参加した学部生・院生からの感想の抜粋です。
自己調整学習をめざす上で、スポーツのように「感察」→「模倣」のプロセスを経づらい「社会科」でいかに「感察」を促すかが、難しい課題だなと感じさせられました。小学生から高校生(あるいは大学生も?)まで、日常の大半を過ごす環境はおしなべて「学校」と「家庭」なのではないかと思います。そんな中で「社会」がどう「感察」されるかというと、多くの場合はニュースや新聞といったメディア、親や教師からの伝聞といった疑似体験に限られるのではないでしょうか。また、1対1ではなく、40人一斉教授という制約の中で、教師に自己調整学習の何を支援することができるのか?とても難しい課題ですが貴重な勉強をさせていただきました(学部4年・林田さん)
私が一番印象に残っているのは「感察」の話です。どこを見れば良いのかという視点を獲得していない子どもにモデルや資料を渡したところで、子どもは主体的に意義ある学びを行うことはできないでしょうし、つまらない授業や取り組みとして子供の意欲を削ぐことにもなると思います。「感察」の視点を与えること、「感察」を支援していくことが、子供の主体的な学びが求められるこれからの授業において教師が担う役割のようにも思えます。一方で、スポーツでも社会科でもその視点の設定や指導は簡単ではないなと感じました。もう1つ、やる気が一人一人異なる集団に対して、どのように指導していくのかという課題も再確認できました。一方で教師からの一方的な学習が難しい場面にこそ、子供が自らの目標を立て、学びをマネジメントしていく自己調整学習の利点が生かせるのではないかとも感じています。「社会科”特有”」の自己調整学習のあり方、そもそも社会科に自己調整学習は必要なのかについて、これからも議論を深めていければと思います(学部4年・野瀬さん)
スポーツコーチングとしての一つのモデルを得られただけでなく、「集団・個人に対する足場かけ」など学校教育との比較・応用まで発展を目指せたことが大変意義深いと感じました。また今回先生や院生さん、学部生だけでなく別領域の方が勉強会に参加しました。様々な立場から一つのテーマに対して議論する機会があることは、周りの環境が与えてくれる財産のようにも感じます。
大変勉強になった回でした。参加させて頂きありがとうございました(学部4年・住谷さん)
社会科の学習(特に歴史の学習を想像してしまったのですが、、)は動きや音といった感覚で捉えられる学びのプロセスが限られている、捉えることが困難であることが足場かけの難しさにつながっているのではないかと思いました。見にくい学びのプロセスや視点を可視化するという意味で、「方法的概念」として整理し、子どもと共有し学習を展開していくことで足場かけになっていくのだなーと改めて「方法的概念」の意義を再確認できました。松浦さんから最後に指摘がありましたが、「社会科に”特有の”自己調整学習ってあるの?」という問いは、ハッとさせられる一言だったかなーと思います。これからも、議論を通して考えを整理していければなと思いました(博士課程前期2年・高松さん)
今後も自己調整学習勉強会は,多様な価値観や考え方を持った様々な立場・領域の方との議論をしていきたいと考えています。オープンな環境で実施していますので,興味のある方は玉井さんまでご連絡ください(博士課程前期2年・玉井慎也:m190798〈at〉hiroshima−u.ac.jp(〈at〉を@に代えてください))。