本プログラムの大学院生がシティズンシップ教育セミナーを開催しました。

 2026年9月4日,EVRI定例オンラインセミナー講演会No.202「『民主的社会をつくるシティズンシップ教育』を読む―学校はシティズンシップ教育の中で何ができるのか―」が開催されました。本セミナーは,川口広美准教授が担当する大学院講義「比較カリキュラムデザイン基礎研究」の議論を発展させる形で,愛媛大学教育学部の井上昌善研究室と共同で企画・開催したものです。

 本学からは,本プログラムの井戸浩太氏(博士課程前期2年),中西美里氏・玄紀雲氏・張朝鈞氏(博士課程前期1年)の4名が参画し,企画・運営およびディスカッションを行いました。また愛媛大学からは,大石有美香氏(教職大学院1年)宮﨑明野氏・森田諒氏(教育学部4年)の3名が登壇しました。さらにゲストとして,孫美幸准教授(文教大学),斉藤仁一朗助教(横浜国立大学),小貫篤准教授(埼玉大学)にご登壇いただきました。当日は,合計74名の方々にご参加いただきました。

 本セミナーでは,北山夕華・古田雄一・川口広美・斉藤仁一朗・川中大輔編,日本シティズンシップ教育フォーラム(J-CEF)監修(2025)『民主的社会をつくるシティズンシップ教育:理論と実践の現在』を手がかりに,社会のあらゆる場で実践されるシティズンシップ教育の中でも,特に学校という場に求められる役割に焦点が当てられました。

写真:発表する広島大学チーム(上から中西さん・玄さん・張さん・井戸・川口准教授)

本プログラムの学生からは「子どもと他者,社会の関係性を問い直す」と題し,それぞれの研究関心を踏まえた2つの論点を提起しました。第1に,中西氏・張氏から「『社会の公共的課題』と『個人の興味関心』をどう架橋し,また,それらに関心のない子どもも巻き込むシティズンシップ教育をいかにデザインするか?」という問いが示されました。また第2に,玄氏・井戸氏から「外国にルーツのある子どもの増加に伴い,他者の記憶を「分有」するシティズンシップ教育が求められる中で、暗黙の「日本人らしさ」を前提とする学校教育の課題はどのようなものか?」という問いが提起されました。

写真:発表する愛媛大学チーム(左から宮﨑さん・森田さん・大石さん)

愛媛大学の学生からは,研究室で開発・実践した「交通安全教育」の授業を事例として,子どもを「守られる存在」としてだけでなく,「地域の安全をつくる存在」として育むことができるのではないかという問題意識が共有されました。この事例を起点として,学校という場で子どもを「社会をつくる主体」として捉えるとはどのようなことか,また,そこから導出されるシティズンシップ教育の目的をどのように考えることができるのかについて,論点が提起されました。

写真:参加者を交えたディスカッションの様子

セミナー後半では,学生による論点提示をもとに,ゲストの先生方や参加者を交えたディスカッションが展開されました。一連の議論を通して,それぞれが異なる問題意識や規範のもとで「シティズンシップ」という言葉を捉え,多様な文脈の中で「シティズンシップ教育」を実践していることが改めて浮かび上がりました。「シティズンシップ」という言葉がもつ多義性と重みを踏まえながら,その内実を問い続けていくことの重要性を考える機会となりました。

【登壇した大学院生のコメント】

本セミナーを企画・運営し,登壇した大学院生の声をお届けします。

○「強い言葉」だからこそ 

シティズンシップ教育がナショナルな枠組みや個々の属性・背景を越えて、様々な文脈や領域で行われていることを実感できるイベントでした。「シティズンシップ」という言葉は非常に多義的で、ゆえに非常に強く、ある意味で便利な言葉です。だからこそ、それがマジックワード化して一人歩きしないよう私たちは常に緊張感を持たなくてはいけないのだと思います。 

今回、私自身にとってもセミナーの企画・運営・登壇と初めてだらけの経験で、難しいことも多々ありました。先生方や同じ学生チームの皆さまのサポートもあり、何とかやり遂げられたかなと思っています。その後の懇親会まで含めて、とても楽しく良い経験ができました。引き続き頑張ります。 

(博士課程前期1年 玄紀雲) 

○「シティズンシップ教育」を考えるとは 

 『民主的社会をつくるシティズンシップ教育』という書籍への私たちのリスポンスに対し,ゲストの先生方から忌憚のないご意見やご感想をいただきました。そこでは,私にはなかったたくさんのシティズンシップ教育に関する視点を獲得することができたと同時に,自らの考えの浅さも感じました。シティズンシップ教育を考えるとはどういうことであるのかを,改めて考え直す必要性があると思いました。今後もより一層学びを深めていかなければと気が引き締まる思いでした。運営や企画に関しましては,初めての経験であり,手探り状態ではありましたが,先生方や愛媛大学のみなさんや,先輩,同期に助けていただいて,やり遂げることができました。この経験を糧にして,今後につなげていけたらと思います。

(博士課程前期1年 中西美里)

○「何の議題を学ぶか」を考える

 私はこれまでプロジェクト型学習や社会的課題に関心を持ってきました。その中で今回改めて考えたのは、「社会科では、子どもたちに何を課題として学ばせるべきなのか」という問題です。選挙をめぐる社会では、移民、環境、戦争と平和、経済と暮らし、LGBTをめぐる問題など、さまざまなテーマが政治的な争点として提示されます。その一方で、子どもや若者自身にもそれぞれの関心があります。では、その中で何をより優先して取り上げるべきなのでしょうか。

 今回特に印象に残ったのは、教師が子どもの「一瞬の興味」を生み出すことができる、という視点でした。子どもがもともと関心を持っている課題だけを扱うのではなく、教師自身が社会的な重要性を判断し、教材や問いの提示を通して子どもの興味を喚起し、そこから学習を深めていくこともできるのだと思います。そのためには、教師がどのような課題を選び、どのように子どもの関心と結びつけるのか、その力量を教師研修の中でさらに高めていく必要があると感じました。

(博士課程前期1年 張朝鈞)

【付記】

本セミナーの開催にあたり,ご支援いただきました皆さまに,改めて感謝申し上げます。今後とも,研究や実践を通じた交流を深めてまいりたいと思います。また広島大学教育ヴィジョン研究センター(EVRI)のホームページには,本セミナーの開催報告を掲載しています。あわせてご覧ください。(リンク:https://evri.hiroshima-u.ac.jp/33839)

(執筆:博士課程前期2年 井戸浩太)