2024年10月12日・13日に,鹿児島大学教育学部にて,全国社会科教育学会第73回全国研究大会が開催されました。社会科教育学を専門とする本領域の教員・大学院生もこれに参加しました。
今大会では,本領域の池尻良平准教授がシンポジウム「社会科教育研究における理論と実践の関係を問い直す」に登壇し,「社会科教育における理論と実践の関係性を捉え直す視点:教育工学・学習科学のアプローチを用いる歴史教育の研究者から見て」と題して発表をしました。教育工学・学習科学の立場から社会科教育学を分析し,社会科教育における理論と実践の関係性を捉え直す4つの視点を提言しています。また,総会では,2024年度研究奨励賞として,本領域の修了者の久保美奈さん(千葉経済大学専任講師)の研究論文「中学校社会科公民的分野の教科書にみられる「障害メッセージ」の特質と課題:より包摂的な社会科教育をめざして─」(『社会科研究』第97号掲載)が選ばれた旨,学会長から発表されました。
【シンポジウム】 ・社会科教育研究における理論と実践の関係性を捉え直す視点―教育工学・学習科学のアプローチを用いる歴史教育の研究者から見て―(池尻良平) 【自由研究発表】 ・教室のディスカッションを促進する教師のストラテジー―高等学校「公共」のアクションリサーチを手がかりに―(溝口雄介) ・様々な立場を越えた連帯を志向する,ロールプレイ実践によって,生徒の意識はどのように変容するか―公民領域の単元「雇用と労働問題」における「生理休暇」を扱った包括的性教育実践として―(野呂航平・別木萌果) ・インターセクショナルな不正義への対抗をめざす社会科(公民的分野)の単元開発:単元「『障害女性差別』は、障害差別か?それとも女性差別か?」を事例に(和田尚士) ・初任教師教育者は、社会科授業研究指導で何に・なぜ悩むのか―紙芝居のアートベース・セルフスタディを通して―(小栗優貴・守谷富士彦・粟谷好子・石川照子・草原和博) ・社会科教師は「社会科教師である」ことをどのように語るのか?―経験教師のライフストーリーに表現される教職アイデンティティに着目して―(露口幸将) ・社会科ドラマ教育の可能性の検討―社会を「想像」して「創造」できる市民の育成のために―(大岡慎治) ・子どもが持つ複数のアイデンティティを考慮した相互理解教育の必要性―ポジショナリティの観点からの提言―(劉 旭) ・「認識的不正義の是正をめざす社会科」を,どのように開発・実践すべきか?―A高等学校における世界史単元デザイン研究を手がかりに―(田中崚斗・植原督詞) ・日本の社会科教育学において歴史的エンパシーはどのように論じられてきたか―歴史的エンパシーの「情意的側面」への対応に注目して―(後藤伊吹) ・公民科教師は,なんのために,なにを,どのように(政治的)自己開示をしているか?―日本の教室空間の再政治化を目指して―(吉田純太郎) ・学校歴史教育は困難な歴史を展示している博物館をどのように活用できるか―広島平和記念資料館を事例に―(金 鍾成・山本亮介・野呂航平・後藤伊吹・和田尚士・劉 旭・田中崚斗) ・通史授業の歴史から現代の関連ニュースを検索できるAIアプリが高校生の日常生活の認知行動に与える影響の分析―系統的な通史授業と現代のテーマ学習を両立させるカリキュラム・デザインに向けて―(池尻良平・吉川 遼・澄川靖信) ・手続的概念を重視した歴史教育カリキュラムの正当化の戦略:イングランドCHATA プロジェクトの場合(玉井慎也) 【ブックトークカフェ】 ・『メイキング・シティズン:多様性を志向した市民的学習への変革』(川口広美・福井 駿・野呂航平・山本亮介・池田祐基) |
最後に,大会に参加した大学院生の感想を紹介いたします。
まず,参加を終えて感じたことは,研究者・実践者(分離できるかには論争がありますが)が共通言語を用いて議論ができる学会という場に良さがあるという点です。特に,シンポジウムでは,「理論と実践」という共通言語を用いて,研究者・実践者が共に議論をし,研究を発展させようとする点に本学会の良さが現れていたと思います。次に,発表を終えて感じたことは,学会に参加する多様な参加者の視点から研究に対する意見を頂ける良さがあるという点です。学会は,学校の教師,博物館の学芸員,歴史学者,……と,多様なアクターで構成されているため,研究に対するメタ的な視点を多くいただくことができました。最後に皆様も,積極的に知の創造の場である学会に参加・発表していただきたいと思いました。 (博士課程前期2年・和田尚士) |
大学院生として全国社会科教育学会に参加し,「包括的性教育」「困難な歴史」に関する二つの自由研究発表,前期大学院授業で講読した本についてのブックトークで,大変ありがたいことに,いずれも共同発表として,3度登壇させていただきました。学会発表に向けた共同研究者との度重なる準備を経たうえでの,発表や参加者からの質疑応答から,まさしく「知の共同構築」の場としての学会を感じることができました。また,事務局の運営としても研究大会に関わらせていただき,様々な側面から学会という空間を経験することもできました。今後も,学会発表の成果や課題などをふまえて,大学院の授業での学びや修士論文研究,論文投稿などに向けて,社会科教育研究に対して,「To make a little better world. (ほんの少しマシな世界をつくるため)」の気持ちで,より広い視野を持ちながら向き合っていきたい次第です。 (博士課程前期1年・野呂航平) |
(執筆:博士課程後期2年・吉田純太郎)