ブラジル・サンパウロ大学で開かれたシンポジウム『Peace Education in  Brazil and Japan』で日本の平和教育について発表しました。

 2023年8月30日にブラジル・サンパウロ大学で開かれたシンポジウム『Peace Education in  Brazil and Japan』において、本コースの草原和博教授と金鍾成准教授が日本の平和教育について発表しました。二人は日本の平和教育が反戦や戦争責任など特定の平和像を子どもに伝える傾向にあると説明し、平和教育において子どもが自らの平和像を構築する機会を提供する必要があると述べました。その具体的な解決策として、相互理解の主体により実際の対話である「真正な対話(Authentic Communication)」を活用した広島大学教育ヴィジョン研究センターのプロジェクトを紹介しました。

 まず、過去の出来事に関する集合的記憶が再現されている博物館を対話の媒体として設定し、子どもが異なる語りを持つ他者とともに博物館のメッセージを解体・再構築する『The Last 10 Feet』プロジェクトが紹介されました。次に、国家の公的なナラティブが再現されている教科書、そのなかでも社会科教科書を媒体として設定し、子どもが異なる語りを持つ他者とともに教科書のナラティブを解体・再構築する『より良い教科書』プロジェクトが紹介されました。最後に、日本の平和教育者の実践の語りを媒体として設定し、国内外の平和教育者が他者とともに各自の文脈に沿った平和教育の目的、内容、方法について話し合う『平和教育アーカイブ』プロジェクトが紹介されました。これらのプロジェクトは、平和教育を受ける側に学びの主導権を渡すことを目的としており、自ら常に平和像を構築、解体、再構築する力を養うことに重きをおくと説明されました。

 上記の発表に対してサンパウロ大学のファビアナ准教授は、これらのプロジェクトを通して記憶をめぐる緊張を乗り越えて相互理解を追求するヒントを得たと評価し、プロジェクトに反映されている学びなおし(Unlearning)の哲学についても言及しました。フロアーからもブラジルで上述の平和教育のプロジェクトを行う際にどのようなトピックで対話すれば良いかなど、両名の提案に基づいてブラジルの平和教育の在り方に関する議論が触発されました。

  なお,このシンポジウムの様子は大学公式チャンネルよりYouTube配信されました。日本とブラジルの平和教育にご関心のある方はぜひご覧ください。

 広島大学社会系コースは,今後も「真正な対話」にもとづく平和教育を発信することで、国内外の平和教育の在り方の議論に積極的にかかわっていきます。

(執筆:准教授 金 鍾成)